ログバー「Ring」――“魔法社会”は今と案外変わらない?:妄想ウェアラブルの午後
“魔法のリング”――そう呼ばれてキックスターターで約9000万円を集めた「Ring」。スマートフォンや家電の操作を、ジェスチャーひとつで操作できる指輪型デバイスだ。すべてがジェスチャーだけで操作できるようになった未来に、“魔法使いの世界”は訪れるのだろうか?
連載:「妄想ウェアラブルの午後」とは
近年急速に普及し始めたウェアラブルデバイス。腕時計型やメガネ型などさまざまな種類が登場してきているが、それらが「人々の生活をどう変えるか」についてはまだまだ議論の余地が残されている。本連載では、製品のスペックや機能比較にとらわれず、ウェアラブルの正しい(?)未来を「妄想」することに全力を注ぐ。
ログバー「Ring」
日本のベンチャー企業ログバーの「Ring」は、人差し指に装着し、ジェスチャーによってスマートフォンや家電を操作できる指輪型デバイスだ。
照明やテレビをつける、音楽を再生する、スマートフォンでのテキスト入力や写真撮影をしてSNSにアップする、連絡先を交換し、カードの支払いまで行う……ジェスチャーだけでこれらのことを可能にするRingは、“魔法のリング”と呼ばれて話題となった。値段は269.99ドル(約2万7千円)。昨年10月から一般販売が開始されている。
魔法力が人生を決める「Ring社会」
Ringがスマートフォンのように普及して、より多くのことがジェスチャーだけで可能になったとき、果たしてどのような未来がやってくるのだろう?
上で挙げたようなすでにある機能に加えて、たとえば玄関の施錠、Suicaの支払い、パスポートや免許証といったIDの役割、その他ありとあらゆる電子機器やサービスを利用するためにRingが必要になったとき、Ringだけで日常生活が送れるような未来が、いや、Ringがなければ日常生活を送ることができないような未来が実現するかもしれない。
そうすると、いまの世界でインターネットやコンピューターを使う力が日常生活で欠かせないように、Ring社会では皆が身に付けておくべきスキル、心得ておくべきリテラシーとしてその使い方を学ぶようになるだろう。小学校から始まるRingの授業では、まるで英語のスペルを練習するかのように、正しいジェスチャーを練習するのである。たくさんの魔法が上手に使える人はクラスの人気者に、そうでない人は落ちこぼれとなり、大学受験や就職の際にも“魔法力”が問われることになる。TOEICや漢字検定のように、必須ではないけれど持っておけば有利な資格として魔法検定が登場するかもしれない。
無視できない“黒魔法”の存在
そんなRing社会で生じるのは、魔法力の有無によって得られる機会や所得に差が生まれてしまう「マジック・デバイド」だ。魔法先進国と後進国、魔法都市と田舎、魔法力の高い人とそうでない人との間に格差が生まれる構図は、悲しいかな、もしかしたらいまの社会と何ら変わらないのかもしれない。
また手を触れずにあらゆる電子機器を操作できるということは、悪用されたときの被害も大きなものになることを意味する。ジェスチャーで車やドローンを操作したり、他人や公共のコンピューターを操ったりする力は、犯罪やテロにまで発展しかねない。映画『クロニクル』のような事態を心配するのはさすがに杞憂かもしれないけれど、Ringによる“黒魔法”が使われないようにしなければいけないだろう。学校では道徳の授業で「正しい魔法の使い方」を教え、警察は魔法犯罪に対処するための特殊部隊を持ち、魔法の悪用を罰するような法律もできる。新しい技術の悪用と規制はいつだってイタチごっこなのだ。
いま僕たちが使っているスマートフォンやインターネットも、きっと100年前の人から見れば魔法だっただろう。人類はこれまでにも数々の魔法を生み出してきたし、これからも新しい魔法を作っていくに違いないが、結局のところ、その新たな力を社会や個人がどう使っていくのかに僕らの未来はかかっている。僕たちは、これから生まれる魔法をどのように扱っていけばいいのだろう?
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