恋愛マニュアルを読み込む人は、ランニングも続かない? プロに聞く「走り続けるコツ」:燃え尽きランナー救済計画
ランニングを挫折してしまう「燃え尽きランナー」にならないためのコツを探していく本連載。今回は現役時代にプロのランナーとして活躍されたお二人にお話を伺いました。
ランニングを始めたは良いものの、結局続けられず挫折してしまう――そんな“燃え尽きランナー”にならないためのコツを、女優の高山都(たかやま・みやこ)さんと一緒に検証していく本連載「燃え尽きランナー救済計画」。
運動音痴で体育の成績は2だったという高山さんが初めてのフルマラソンに挑戦するまでを聞いた第1回に続いて、今回は「日本ランニング協会」の代表理事である小林渉(こばやし・わたる)さんと、ランニングアドバイザーで『週1回のランニングでマラソンは完走できる』の著者でもある真鍋未央(まなべ・みお)さんにゲストとして登場してもらった。
小林さんと真鍋さんはともに、現役時代にはプロのランナーとして実業団に所属し、大きな大会を幾度となく経験してきた正真正銘のアスリートだ。しかし、そんな世界にいたからこそ、「趣味で楽しく走る」=「Fun Run」の世界になじむきっかけが見つからずに悩んだ時期もあったと語る。では、彼らはそこからどのようにして立ち上がり、再び“走り”始めたのか。「趣味で走ること」を諦めないために、多くのランナーに伝えたいこととは――。
32歳で引退。走る気がまったく起こらなかった
小林:小さなころからひたすら走ってきました。大学時代には箱根駅伝にも出て、ユニバーシアードの日本代表にも選ばれて。32歳で引退したときに気付いたのは、「自分はそんなに走ることが好きではなかったのかもしれない」ということでした。目的がなくなったら走る気も消え失せてしまったんです。
1年くらい、1歩も走りませんでしたよ。「もう走らなくていい世界なんだ。食べるものも気にしなくていいんだ。明日も朝練ないんだ!」という感じでした。
真鍋:私も同じ。引退したのは22歳のときですけど、最後の方は「記録を出さなきゃいけない」というプレッシャーから、走ること自体が苦になっていて。実際記録も出なくなっていったし、おもしろくなくなっちゃったんです。
やっぱり1年くらいはランから離れた時期がありました。それまでにやりたくてもできなかったこと、アルバイトをしてみたり、車の免許を取りに行ったり、友達と遊びに行ったり、普通の女の子がするようなことをして過ごしました。
――再び走り始めたきっかけは。
小林:引退してからも、もちろん仕事などでランの世界には関わっていて。あるとき皇居に行ってみたら、とてつもない数のランナーが走っていたんですね。「なんでみんなこんなに走ってるの!? しかもめちゃくちゃ楽しそう……」ということに衝撃を受けたんです(笑)。「走ることってこんなに楽しめることなのか……」って。
それまで自分は、タイムという一つの基準だけが重視される競技の世界を生きてきたわけですが、そのときあらためて「走る楽しみは人それぞれなんだ」という基本的なことに気付かされたんですね。
真鍋:私は1年くらい充電期間を置いたら、だんだん身体を動かしたくなってきて。ランニングクラブで人を教える立場に復帰したんですけど、最初はトレーナーとしてストイックに振る舞いすぎてしまって。そこで一旦自分の視点を下げて、「無理しなくてもいいじゃん、楽しむことが一番大事なんだから」と初心に帰れたのが大きかったですね。
今はまた、走ることが大好きになりました。長い間動かずにいると身体に何かたまっていく感覚があって、「汗をかいてすっきりしたいな」と自然に思えるようになりましたね。でも「今日はやりたくないな」という日に無理に走ることもありません。
高山:私は逆に、昔からずっと運動では落ちこぼれだったから、変なプライドがなかったのが良かったのかも。最初は3キロとか短い距離で始めたのも良かったと思っていて。「○○しなきゃいけない」とかって感覚があったら、続かなかったかもしれません。
タイムは二の次。「安全に楽しく」を最優先
――日本ランニング協会は、そもそもどんな組織なんですか?
小林:発足イベントをしたのが去年の4月で、ちょうど1年前です。きっかけは、これまで自分自身がずっと選手としてやってきて、日本陸連のようなアスリートのための組織にはお世話になってきたけれど、「それ以外の一般のランナーのための受け皿がない」ということに気付いたこと。
組織としての目的は、「“安全に楽しく継続して走る”ことを普及する人材」の育成です。こうした人材を「ランニングアドバイザー」という資格として正式に整備し、資格取得のための講座を月に1回開いています。
「安全に楽しく」というのがとにかく最優先なので、講座の内容は靴の履き方からストレッチの仕方、疲労回復のための知識、AEDの使用方法など。受講資格として、一応「ハーフマラソン完走経験者」にしぼってはいますが、決して走るのが早い必要はありません。講座に来る方は、ジムのインストラクターや学校の先生、地方のスポーツ少年団の指導者などさまざまですね。
高山:その資格、私も取ってみたいです。タイムが出せる人を育てるんじゃなくて、普及を目指しているのも素敵ですよね。「自分でも(ランニングアドバイザーに)なれるんじゃ?」って思えることって大事だと思います。
恋愛とランは似ている?
――“燃え尽きランナー”にならないためには、どんなことが大事だと思われますか?
小林:そうですね、先ほどもちょっと話に出ましたけど、「○○しなきゃ!」のような思い込みが強いと、どうしても続かなくなってしまうと思います。日本人ってやっぱりまじめな部分が多いじゃないですか。学生時代のマラソン大会でも、いきなり歩き始める人とかっていないですよね(笑)。とりあえずみんなちゃんと走る。
高山:途中でやめたりあきらめたりすると、「負け組」みたいに思っちゃったり。
小林:そうそう。でも、本当はそんなことないんです。「走るなら1時間は続けないと意味がない」とかよく言われるじゃないですか。「10分でもいい、1キロでもいい、足が痛ければ歩いちゃえばいい」そういう意識の方が、むしろ続きます。
真鍋:走った後のおいしいごはんとか、飲み会とか、ごほうびを見つけることもいいですよね。
高山:私はそれ、得意です! あとは、前に未央ちゃんと話したときに「恋愛とランは似ている」って話、しましたよね。
真鍋:義務感になると続かない、ってやつですね。
小林:恋愛マニュアルをじっくり読み込んでいる人の方がうまくいかない、みたいなことなのかも。型にはめて、「結婚とはこういうものだ。主婦は家で旦那さんに料理を作って待っていなきゃいけない」みたいなことを考え出すと、長続きしません。僕は勢いと直感で勝負する方なんで、だいじょうぶですけど(笑)。
高山:小林さんは絶対マニュアル読み込まない人ですよね。私もです(笑)。
それと、「経験しないと分からないことがある」というのもポイントですよね。ケガとの付き合い方なんかもそう。失敗しないと気付かないこともたくさんあるから、むしろいっぱい失敗した方がいいと思います。
ランニングの楽しみ方が変わってきた
真鍋:ランニングブームは長く続いていますけど、楽しみ方は徐々に変わってきていると思います。私が教えていたランニングクラブでも、昔はもっと走ることに対してストイックにとらえている人が多かった。でもここ数年は、東京マラソンなどをはじめとしたお祭り的なイベントもどんどん増えてきて、層がだいぶ変わったと感じます。
小林:例えばですけど、今日みたいな格好(ランニングウェア)で電車に乗っていたとしたら、ひと昔前だったらすごく変な目で見られたと思います。でも、今はそんなことはない。「あ、これから走るのかな」と思われるくらいで。とても良い流れだと思っています。
それにタイムを追い求めるだけじゃなく、やせたいとか、気分転換したいとか、ニーズも昔と比べて多種多様になってきています。日本ランニング協会でも、そういったニーズに応えていきたいですね。
高山:私の母も40歳でランを始めて、年代別の大会で優勝するくらいのめりこんでいます。同じように、大会に出ると70歳くらいのおじいちゃんがすごくきれいなフォームで走っているのを見かけたりするんですね。自分もそんな風に続けていきたいな、と思っています。
――小林さん、真鍋さん、高山さん、本日はありがとうございました!
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