コラム
» 2015年05月01日 20時30分 UPDATE

「遺伝子」とは何か

遺伝子は、ヒトの体の部品を作るための重要な情報を記録している領域であり、ヒトの個性を生み出す設計図でもあります。遺伝子を正確に知ることは自分の個性を知ること、自分自身を知ることにつながります。

[Geno]

ヒトの体の設計図? 遺伝子(Gene)とは?

 ヒトの体は皮膚、筋肉、心臓、肝臓、胃、肺、脳など、様々な特徴と機能を持った部位から成り立っています。これらの部位はすべて、細胞という小さなパーツが組み合わさってできており、筋肉は筋細胞、肝臓は肝細胞、脳は神経細胞によって主に形成されています。それらを全て足し合わせると、ヒト一人あたりの細胞の数はおよそ60兆個あります。そのような膨大な数の、多種多様な小さなパーツによって、ヒトの体は形成されています。

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 ところが驚くべきことに、この60兆個の多種多様な細胞たちは、すべて同じ設計図を持っているのです。ヒトの体の設計図は、「デオキシリボ核酸(DNA)」と呼ばれる物質によって書かれています。DNAはアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)という4つの塩基で構成され、様々な順番で並んでいます。この「A」「T」「G」「C」の並び方こそ、親から子へと受け継がれ、ヒトの個性を生み出す「遺伝情報」なのです。

 この遺伝情報全体のことを「ゲノム」と言い、ヒトの場合は「ヒトゲノム」と呼ばれています。ヒトのゲノムの中には様々な情報が記されており、ほとんど意味の無い領域もあれば、ヒトの体の部品を作るための重要な情報を記録している領域も存在します。

 「ヒトの体の部品を作るための重要な情報を記録している領域」、それが「遺伝子」です。ヒトのゲノム上には、およそ2万6000個ほどの遺伝子が載っていると考えられており、それらの遺伝子の使い方の組み合わせによって、多種多様な細胞が生まれてくるのです。

 さらに、個々の遺伝子には性格や体型、運動能力等、ヒトの個性を決定する情報も記載されています。遺伝子はヒトの体を作るための設計図であると同時に、ヒトの個性を生み出す設計図でもあるのです。そのため、遺伝子は「生命の設計図」と表現されることもあります。ヒトの設計図は、巻物のようにいくつかの巻に分かれており、ヒトの場合は23巻2セット、合計46巻に分かれます。

 その巻物、一巻一巻のことを染色体といいます。つまり、ヒトの設計図はおよそ2万6000個の情報が記載された、DNAで書かれた23巻2セットの合計46巻の巻物なのです。今ではヒトのゲノムだけではなく、様々な生物のゲノムが解読されており、その数は3000種を超えました。ヒトと他の生物間では、生命の設計図である遺伝子が大きく異なります。研究者たちは様々な生物の設計図を知り、それをヒトの設計図と比較することで、ヒトとその他の生物の違いを遺伝子から明らかにしようとしているのです。

Understanding Myself 〜遺伝子研究を行う意味〜

 見た目も大きさも違うヒトと他の生きものの間では、生命の設計図である遺伝子が大きく異なります。では、身長や髪色、瞳の色などの違いがあるヒトとヒトの間でも、遺伝子は異なるのでしょうか?

 その答えは「YES」です。ヒトとヒトの間でも、ほんのわずかな遺伝子の違いがあることが分かってきました。そして、その違いがヒトの個性を生み出しているのです。例えば、身長や髪色、瞳の色などの外見的な特徴はもちろん、性格や太りやすさ、病気のなりやすさなども、遺伝子によって違いが生じることが分かっています。

 最近、テレビやインターネットなどのメディアで紹介されるようになった遺伝子検査は、そのような個性に関わる遺伝子を調べる検査です。自分自身の遺伝子を知ることで、自分がどのような傾向を持って生まれてきたのかを知ることができるのです。つまり、遺伝子を正確に知ることは自分の個性を知ること、自分自身(Myself)を知ることにつながっています。

Study of Twins 〜日々進む双子の遺伝子研究〜

 では、自分自身の病気のなりやすさや体質が遺伝子によって生じているのであれば、ヒトの運命も遺伝子によって決まるのでしょうか?

 その答えは「No」です。遺伝子がその人の個性を作る「情報」を握っていることは確かですが、遺伝子がその人の「運命」を決めるわけではありません。一卵性の双子はほとんど同じ遺伝子を持っているため、外見的にもよく似た特徴を持ちます。ところが、一卵性双生児は全く同じではありません。やはり、それぞれに異なる特徴が生まれるのです。

 一卵性の双子に「違い」を生み出す要因、それは「環境」です。 最近の研究では、同じ遺伝子を持っていても環境や精神状態により、遺伝子のはたらきは影響を受けることが報告されています。そのため、100%同じ遺伝子を持っている一卵性双生児でも年を重ねるほどに差が生じてくると言われています。

Geno

The world of Genetics 〜遺伝子研究の今〜

 自身の遺伝子を知ることに、いったいどのような利点があるのでしょうか? 前述のように、病気のなりやすさは遺伝子によって違いが生じます。自身の遺伝子を知ることで、あらかじめ自分が罹りやすい病気を知ることができるのです。

 2013年、ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが遺伝子診断を通じ、乳癌予防のために乳房を切除したニュースが注目されました。彼女は乳がんになったから手術をしたのではなく、遺伝子検査及び診断を受けた結果、乳がんになる確率が高いと判明し手術を決断したのです。

 これは究極的な選択の1つの例ですが、アンジェリーナ・ジョリーさんのように、遺伝子を調べることで、自分が罹るかもしれない病気を未然に防ぐという選択肢を持つことができる時代がやってきたということができるでしょう。

 お医者様から処方された薬が体に合わない経験をしたことや、副作用が強くでてしまった経験をしたことがある方もいらっしゃると思います。実は、薬に対する反応の仕方も、遺伝子によって違いが生じていると考えられています。

 そのため医療の現場では、個人のゲノムを解読することにより、薬の効果や副作用の出やすさやを予測し、個人に合った薬の処方の仕方や治療方法を提案する新しい医療、テーラーメイド医療の研究が行われています。このように個々人に合った治療を行う個別化医療の実現にも、遺伝子検査は重要視されています。

 医療以外にも、遺伝子を用いた技術は私たちの日常生活に溶け込んでいます。近頃アメリカでは、食品へのDNAバーコードの貼付が進んでいます。例えば、ヨーグルトやチーズに貼付されたDNAバーコードを解析すれば、どの種の牛から作られたものなのかが判明します。これは、食品の偽装表示の抑止力になることが期待されています。

 ほかにも遺伝子は、出会いの方法までも変えています。スイスでは、男女の出会いマッチングサービスに遺伝子検査が取り入れられており、遺伝子レベルで相性の良い相手を紹介しています。

Evolution of Genetics =Our Future? 〜遺伝子の進化とその未来〜

 近年、遺伝子解析や遺伝子工学の技術はめざましい発展を遂げてきました。例えば、ロシアや韓国では、遺伝学を用いたマンモスの復活計画が進められています。2013年、シベリアで発見されたマンモスの死骸が、非常に良い状態で保管されていた為に液体での血液採取に成功しました。この血液からDNAを抽出し、クローン技術により胚を発生させ、雌ゾウの子宮に移植することによりマンモスを誕生させようと試みているのです。マンモスのクローン化が成功すれば、私たちが肉眼でマンモスを見る日が来るかも知れません。

 また、1990年代から2000年初頭にかけて、ヒトゲノムプロジェクトによりヒトの全ゲノムを解読する大規模な解析が行われましたが、現在では、数週間で同等以上のデータを解析できる解析機器が開発されており、コストも約10万円で1人分のゲノムが解読できる、いわゆる1000ドルゲノム時代が訪れようとしています。

 さらに、遺伝子工学の世界では1990年代にクローン技術により誕生した羊ドリーは生命倫理的な観点から多くの物議を醸しましたが、現在では倫理的な問題を克服したiPS細胞の技術により、再生医療への道が開かれようとしています。

 これまでの技術革新のスピードから推し量ると、近い将来、健康診断で遺伝子検査や個人のゲノム解析が行われ、それに基づいたテーラーメイド医療や遺伝子治療が行われても少しも不思議ではありません。今は、ちょうど遺伝子検査時代の入り口に差し掛かっているところです。あなたも遺伝子とともに健康を考える一歩を踏み出してみませんか?

※この記事は「遺伝子の?を!に変える」をコンセプトに、遺伝子に特化した国内外の情報を配信するサイト「Geno」から転載しています。

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