これからの「ネットと宗教」の関係 国際ヨガの日に浮かび上がった課題とは:SNSの影響も
6月21日は「国際ヨガの日」でした。世界各地でヨガの催しが行われ、近年のSNSの浸透も後押しして、インターネットを通じてその規模が大きくなり、世界中の人々が参加する大イベントに発展しました。一方で「宗教」に関わる問題も浮かび上がってきました。
ヨガは精神を落ち着かせ、身体を健康に保つのにも最適な方法の一つだと考えられています。もともとヒンドゥー教の修行法として生まれたものですが、今となっては日本も含め、自分が信仰する宗教にとらわれずヨガを生活に取り入れている人も多いです。
6月21日は「国際ヨガの日」でした。ヨガ発祥の地インドでは、ニューデリーで大規模なヨガイベントが開催され、同国のモディ首相も参加。大勢の参加者とその先頭に座るモディ首相らがヨガをする姿をとらえた写真を目にした読者も少なくないかもしれません。
しかし、異教徒の間では「余波」も見られました。特に、ヒンドゥー教の修行法であることからヨガを敬遠する敬虔な異教徒の中には、国際ヨガの日に開かれた催しに参加した同じ宗教の信仰者を、ネット上で率直に批判する人も現れました。
このように、今年の国際ヨガの日は、グローバル化やインターネットの浸透により多くの情報が国境を越えられる現代における「宗教」に関わる問題を浮かび上がらせました。異教徒の慣習を受け入れることと、自分たちの慣習を重んじることは両立可能なのでしょうか。
インドがヨガをソフトパワーとして推進 ネットで拡散
インド首脳陣の発表によれば、ニューデリー市内だけでも3万5千人以上がイベントに参加したそう。盛況振りはヒンドゥー教が国教ではない他国でも。フランスや中国など各地のイベントの写真や動画が、当日数多くソーシャルメディアに投稿される現象が起こりました。
近年、ジャンルや国を問わずインターネットの台頭によりイベントが大規模になるケースは度々見られます。「アラブの春」もその一例といえるでしょう。
アラブの春は2010年末から2012年にかけてアラブ世界で行われた反政府の大規模な抗議活動で、チュニジアで独裁政権を長期続けていた政府で崩壊したことがきっかけとなり、Facebookや衛星放送などを通じて周辺の北アフリカ諸国や中東の国々まで広がりました。
アラブの春は、若者を中心に政府の腐敗が蔓延している現状を打破するための活動だったと考えられていますが、その動きを加速させたのがFacebookでした。
今年の国際ヨガの日でも、そのFacebookやその他のSNSがヨガの世界的な人気をさらに加速させ、インド政府としても同国のソフトパワーとして推進していく狙いがあったのではないかといわれています。
他宗教を受け入れるバランスの難しさが浮き彫りに
しかし、国際ヨガの日の当日、そしてその後、新たな「課題」が表面化しました。
世界中のキリスト教徒の一部は、国際ヨガの日が教会で礼拝をする日曜日だったにもかかわらずヨガをしているキリスト教徒に違和感を示しました。また、一部のイスラム教徒宗教指導者たちは「われわれの神はアラーのみだ。ヨガの日に太陽への礼拝を意味するアーサナを含んだイベントを許容はできない」と述べました。
インド政府側の関係者からもこうした反応に不快感を示す声明が多数出ていましたが、最後は政府側がそのアーサナを除外したイベントにすることで折り合いをつけざるを得ませんでした。
他宗教の習慣を自らの生活に取り入れる動きと、信仰している宗教に忠実でいることの教徒間での論争は、グローバル化やインターネットの浸透を背景に、今後ますます起こっていくでしょう。
日本人の現代的な宗教観にヒント
これから世界は、こうしたせめぎあいにどのように向き合っていくべきか。実は私たち日本人の現代的な宗教観が、そのヒントになるかもしれません。それはどのような宗教観か。
日本では、多くの人々が一年を神道行事である初詣で始め、仏教行事である除夜の鐘に耳を澄ませながら一年を締めくくります。また、キリスト教でなくとも大勢の人がクリスマスを祝う、もしくはイベントに参加したりするでしょう。
「日本人の宗教観は、全ての宗教に共通する倫理観や哲学を大事にしている」と京都の妙心寺・退蔵院の住職である松山大耕氏は述べています。同氏は、日本政府観光局から「Visit Japan大使」および「京都観光おもてなし大使」に任命されており、禅宗を代表してヴァチカンを訪問したり、ルクセンブルクでの「InterFaith駅伝」の参加者でもあります。「InterFaith」とは、諸宗教間の相互理解を意味します。それぞれの宗教の違いを理解し、尊重するための一貫として世界中からさまざまな宗教者が集まる場です。
確かに、多様性を受け入れるという点で日本人の現代的な宗教観は長けており、宗教を発端とした争いが起こる可能性は低いといえるでしょう。グローバル化が進む中、めまぐるしく価値観や慣習が変わり、人や情報が行き交う世の中で、あらゆる側面において自分たちとの違いを尊重して協調できる姿勢は、これからますます求められるのかもしれません。
ライター:赤江 龍介(あかえ りゅうすけ)
立命館大学国際関係学部卒業後、居酒屋チェーン「和民」などを展開するワタミフードサービス(現ワタミフードシステムズ)に入社。その後、シンガポールの金融機関でインターンとして働きながら、母親が米サンフランシスコで経営する日本料理店の経営にも従事。その後もスターバックス コーヒー ジャパンで飲食業でのキャリアを積み、また転職した英会話学校では講師を務める傍ら、宣伝・マーケティング業務なども経験。現在はライターとして「食」「ヘルスケア」「店舗経営」などの分野で記事の執筆・編集を行っている。 (編集協力:岡徳之)
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