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» 2016年11月29日 18時00分 UPDATE

スマホをオフにして、自分の時間をオンしよう――ニュージーランドの市全体で行われたデジタル・デトックスとは

[クローディアー真理,ITmedia]

 私たちは一体どれぐらいの時間をインターネットに費やしているのだろう。インターネットに時間を取られすぎ、生活のバランスを崩してはいないだろうか。

 ニュージーランドでは70%の人々が週16時間以上を、日本では平均して週約20時間をインターネットに使っている。英国では、それが睡眠時間を上回ったという統計もあり、世界的に、生活をインターネットに乗っ取られている感は否めない。

 そんな状態の緩和策が「デジタル・デトックス」。「スマートフォンやPC、インターネットから一定期間離れ、過度な依存から脱する試み(デジタル大辞泉より)」のことだ。興味はあっても、一人で実行するのは心細いもの。では、みんなでやってみようじゃないかと、ニュージーランドのクライストチャーチでは10月2日、全市民に呼びかけてデジタル・デトックスが行われた。

ハグレー・パーク内の植物園に設置されたデジタル・デトックスのブース

テクノロジーに支配されないで

 主催は「All Right?」(?までが名称)。2010と2011年に起こったカンタベリー地方大震災の被災者の精神面を支えるための活動団体だ。同地方の衛生委員会と、心の健康の保持・増進を進める公益財団、メンタルヘルス・ファウンデーション・オブ・ニュージーランドが率いている。毎月違ったテーマが設定されており、デジタル・デトックスは、「前向きに物事を考え、人生を楽しもう」という10月のテーマ、「Mind Your Head」の一環としての活動だ。

 人々にテクノロジーの利用の仕方を再考してほしいというのが開催理由だ。自分自身、人間関係、そして日々の暮らしに、デバイスを使っているがゆえの支障が出ていないか、バランスよい生活を送れているか確認してみてほしいということだ。

 インターネットに接続するデバイスは人間の注意を引くように作られている。私たちが集中するのを妨げるようにできているといってもよい。メールを受け取ると、やりかけのことへの意識がそがれる。その場ですぐに返信し、元の作業に戻り、またメールが入ればそれに答える、という風に繰り返せば、注意力散漫になるための訓練をしているようなもの。これを長期間続ければ、集中力が衰えるだけでなく、ストレスや疲労感にさいなまれ、作業効率は落ちてしまうことも危惧される。

オフラインでいることのメリット

 All Right?は決してテクノロジーを否定しているわけではない。デバイスと永遠におさらばしろと言っているのではないのだ。時には携帯電話にかかってきた電話に出、メールに返信し、思い出の1コマを写真に撮ることもあっていい。しかし、だからといって1日24時間「オンライン」の状態でいる必要はないと訴える。

 短い時間であっても、デバイスから遠ざかることには多くの利点がある。生活のテンポがゆっくりになる。大切と思いながらも、できなかったことをする余裕が出る。自然にストレスレベルは下がり、人間関係も円滑化し、精神面の健康が向上する。

デトックス方法は至って簡単

 10月2日、朝10時から4時間にわたり、市民の憩いの場、ハグレー・パーク内の植物園や、市内のカフェ20軒を中心にデジタル・デトックスは催された。園内に設けられた専用ブースやカフェでは「デジタル・デトックス・ボックス」という薄い小さな箱を無料で用意した。参加者は箱に携帯電話を入れ、預けるだけ。あまりに仕組みがシンプルで、本当にデトックスできるのか不安になるほどだ。

All Right?のマネジャー スー・ターナーさんが持っているのが、デジタル・デトックス・ボックス。種も仕掛けもない、厚紙製の箱だ

 会場となったカフェのうちの1軒のオーナーは、協力を申し出た理由をこう語る。「昔と今とでは、店内の光景がまったく違う。以前は、皆集まってお茶を飲みながらおしゃべりを楽しんでいたのに、今は家族連れや友達同士で来店しても、各人が携帯電話を見ているだけ。会話がないんだ。これじゃ、ふれあいの場であるカフェに来る意味はないよね」

 All Right?では、事前に人々に参加登録を呼びかけた。すると、それに3000世帯が応じた。最終的な参加者数は不明とのことだが、当日飛び入りした人も多く、かなりの数に上ったのは間違いない。

「またやりたい」とポジティブな声

 デジタル・デトックス終了後、All Right?に寄せられたフィードバックは400を超えた。

 いつもならデバイスに費やしていた時間を、人々はウオーキングやガーデニングといったアウトドアアクティビティー、子どもとの遊び、友達に会うなどして過ごした。昔のレシピを出してきて料理をしたり、今まで未経験だったことをやった人もいる。夫や妻とゆっくり話ができてよかったとあらためて書かれているのを見ると、毎日顔を合わせている夫婦の間にもテクノロジーが入り込んでいる可能性を感じさせる。

 何をしたにせよ、参加者が一様に評価しているのは、「気が散ることなく」行動できたこと。作業効率が上がったと認識した人もいた。静けさに幸せを感じたり、周りで起こっていることを心穏やかに受け入れることができたりと、デトックスによって人々は心の落ち着きを取り戻していたようだ。

 また、反省の声もずいぶん聞かれた。どれほど多くの時間をインターネットに費やしているかに気づいて後悔したり、以前に慣れ親しんでいたことを久しぶりにやってみて、きちんと時間を取って続けていればよかったと悔やんだりといった具合だ。デバイスなしにできることがいくらでもあることに気づいた人もいた。

 まったく否定的というわけではないが、デメリットの指摘もあった。友人などが携帯電話を使っている一方で、デトックスに参加したために、孤独感を味わった、またスケジュールが分からなくなり、不便だったというコメントも見られた。

 しかし、今回のイベントを通して、デジタル・デトックスの重要性は参加者ほぼ全員に伝わったのではないだろうか。フィードバックを寄せた人のほとんどが、「またやりたい」という一言を添えているからだ。「毎週日曜日」「1カ月に1度」「ホリデー中」といった風に具体的な予定も書かれ、習慣化させようという人々の意気込みが見てとれた。今回のイベントは大成功といえそうだ。

 デジタル・デトックスはきっかけにすぎない。ゴールは、デバイスの使用と生活の他の部分のバランスをうまくとり、健康的な生活を送ることだ。しかし、きっかけをつかむのはなかなか難しい。All Right?のような外部からの働きかけがあれば、より多くの人が比較的難なくスマートフォンやPCのスイッチを切ることができるに違いない。

ライター

執筆:クローディアー真理

編集:岡徳之


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