「自分の好み」すら他人任せにする人たち――「情報リテラシーは不要」な未来がやってくる?
「Apple Watchの通知機能」から、未来の情報リテラシーにまで思いを馳せる。
4月10日の予約開始を前にして、Apple Watchに関する話題が再び多くなってきている。日頃からこうしたガジェットに対する興味が強く、毎年必ずiPhoneの最新モデルに買い替えているようなユーザーにとっては「買いの一択」なのかもしれないが、一般世間からの反応はさまざまのようである。
Apple Watchのメイン機能の一つは、iPhoneと連動して各種の通知を手首で受け取れることだが、この機能一つ取っても「すごく便利だ」と感じる人と「それってそんなにすごいことなの?」と感じる人に分かれるようだ。さらに言えば、これを「すごいことではない」どころか、むしろ「マイナスになるかもしれない」と考えている人たちもいる。
一日中「手首のチカチカ」に振り回される生活?
Apple Watchをはじめとするスマートウォッチ全般の通知機能を「良くないものだ」と考えている人たちの言い分はこうだ。
「現在の生活はスマホだけでも手一杯だ。毎日の多くの時間をスマホに取られているのに、このうえ手首でまでチカチカされたらたまらない。メールが届いたら即時返信、FacebookもTwitterも逐一反応を確認して、一日中通知を受け取っている……そんな生活が幸せと言えるのか?」と。
事実、既にスマートウォッチを使っているユーザーからは「通知の種類を自分できちんと設定しないと、あらゆる情報が頻繁に手首に表示され、何が重要なのか分からなくなる」といった声も聞こえてくる。仕事効率の観点からも、「割り込みタスクを避けよ」「メールチェックは1日2回まで」などのルールは多くの人が提唱していることで、スマートウォッチの通知機能はこの主張に真っ向からぶつかるものになるかもしれない。
「あなたにとってぴったりの情報」を知っているのは「あなた」ではない
iPhoneの例を見ても分かるように、いわゆる「プッシュ通知機能」は各アプリ開発者やサービス提供者にとって“奪い合い”だ。狭い通知領域にできるだけ目立つように表示してもらうことを狙って、多くのアプリやサービスがしのぎを削っている。今後、多数のアプリがスマートウォッチに対応していくことを考えれば、ユーザーにとって「本当に重要な情報」が埋もれてしまい、流れていってしまうことは想像に難くない。
ではどうするか? おそらくプラットフォーム提供側(Apple Watchで言えばApple)は、「あなたにとって本当に重要な情報だけを、当社が自動で選別して配信します」といった機能を、今後どこかの時点で搭載してくるのではないだろうか。
気付いている人もいるだろうが、これは現在Facebookがユーザーのタイムライン(ニュースフィード)で行っていることと同じである。あるいは、GoogleがGmailに自動で「重要マーク」を付けたり、Gunosyなどのニュースキュレーションアプリが個人の好みに最適化してニュースを送ってくる仕組みと同じである。
つまり、「あなたにとってぴったりの情報」を選ぶ主体は、あなたではなくプラットフォーム提供側になるということだ。
「リテラシー」すら他人任せの時代が来る?
こうした傾向は、近年急速に発展してきた人工知能分野におけるディープラーニングなどの技術とも関係が深いだろう。プラットフォーム提供側が握っている膨大なユーザーデータ(いわゆるビッグデータ)を人工知能が分析し、機械学習したアルゴリズムをもとに、ユーザーひとりひとりに最適化した情報(価値)を提供する――そんな試みは、各分野で既に始まっている。
象徴的なのが金融分野で、一例を挙げればアルゴリズム取引がある。プログラムが固有のアルゴリズムにしたがって自動で注文を繰り返す取引のことだが、ここでは人間(利用者)は「どの株式を買うか」や「どんな頻度で、どんな量で」取引するかといった判断はしない。判断するのは「どのプログラム(アルゴリズム)に運用を任せるか」だ。
こうして、「自分にぴったり」は自分が決めるのではなく、Googleが、AppleがFacebookが決める時代がやってくる。いや既にやってきている、のかもしれない。「情報の取捨選択ができるリテラシーを持ちましょう。そうでないとネット社会は生き延びられない!」と皆がうそぶいていたのも今は昔――。リテラシーなんて必要なくなる? それとも「どのプラットフォーム提供者」を選ぶかのリテラシーはずっと必要であり続ける?
と、気付けば「Apple Watchの通知機能」の話からずいぶん遠くに来てしまったが、ここで書いたような未来はユートピアなのか、それともディストピアなのか、最近ぼんやりと考えてみたりもする。もちろん結論はすぐに出せるものではないだろうが、「自分のことは何でも自分で決めている!」と言い張れるような今の生活は、実は存外に貴重なものなのかもしれない。
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