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インタビュー

iPhoneやApple Watchは臨床研究に使えるか 「Heart & Brain」開発者の狙い(1/2 ページ)

慶応大学医学部が臨床研究のために開発したiPhoneアプリ「Heart & Brain」は、日本初のResearchKitを活用した取り組みとして注目です。アプリを開発した医学部内科学教室(循環器)の木村雄弘特任助教に、その狙いと展望を聞きました。

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Heart & Brain使用中の様子
Heart & Brainで「協調運動評価」を受けている様子

 慶應義塾大学医学部が11月25日にリリースした、不整脈や脳梗塞の検出に関する臨床研究を行うためのiPhoneアプリ「Heart & Brain」は、日本国内で初めて、Appleが用意した医療の研究調査用フレームワーク「ResearchKit」を活用して開発されたものです。

 その目的は、iPhoneやApple Watchで収集した健康データをもとに、不整脈や脳梗塞の早期発見につなげられるかどうかを検証すること。iPhoneユーザーが自由に参加できるこのフレームワークでどういったデータが取れ、そのデータをどういった形で役立てられるかを研究します。

 なんとこのアプリ、慶應義塾大学医学部内科学教室(循環器)の木村雄弘特任助教が自らSwift 2(iOS向けのプログラミング言語)でコードを書いて開発したそうです。この日本初の試みにいち早く取り組んだ木村先生に、その狙いと展望を聞きました。

一般的な臨床研究とResearchKitを用いた研究の違い

 臨床研究とは、病気の予防からより精度の高い診断、原因究明、治療方法の改善などの目的で、人を対象に医学的なデータを得るために、大学病院を中心に行われている研究です。一般的に、臨床研究の参加者は、主にその病院で治療などを受けている患者です。臨床研究を行う場合、その研究の目的に合わせて対象になる人を選別し、個別に声をかけ、医師や医療スタッフから詳細を説明をしたうえで、自由意志で参加を決めてもらいます。これを「インフォームドコンセント(説明を理解した上での同意)」 といい、臨床研究の大原則とされています。

 多くの手続きを踏んで、ようやく始められるものであるため、日本では臨床研究で大規模なデータを集めるのは困難だといいます。

 「海外の大規模な臨床研究の中には、非常に大きな数の参加者を集めて評価を行っているものもあります。こうしたものは、エビデンスとしての根拠も強いのです。ですが、日本ではどうしても1施設で実施するのには限界があり、1000人以上のデータを集めるような研究は多施設で展開しなくてはならず、なかなか容易ではありません。今までは参加をお願いしても、皆様にご協力いただけるとは限らない、といった状況でした」

 しかし、ResearchKitというフレームワークを用いることで、その状況が大きく変わるといいます。皆が持っているiPhoneでデータが収集できれば、多数のデータを入手できる可能性があるというのです。

 「参加者が『iPhoneのユーザー』という、ある種限定された層になる問題はありますが、通常の臨床研究のように参加資格が厳しくないので、データを広く集められる可能性があります。ビッグデータの構築方法として、こういうデータの取り方もありなのかなと、ResearchKitに興味を持ちました」(木村先生)

 実際にアプリからデータがどう取れるのか、そのデータがどのように評価できるのか、そしてどの程度有効なのか、といった点は、これから検証していくことになります。それが医学的に有効なものなのだとしたら、今後はさらにそのデータを活用した何かを考えていくこともできるとのこと。

 ちなみにHeart & Brainアプリは公開後1日で4000程度のダウンロードがあったといいます。

Heart & Brainはなにをするアプリ?

 Heart & Brainアプリで取得するデータは、「アクティブエネルギー」「ウォーキング+ランニングの距離」「上った階数」「心拍数」「倒れた回数」「歩数」。アプリ起動時に許可を求め、iOSのヘルスケアアプリに記録されているデータを読み込みます。これらに加えて、アプリ上で実施する質問に答え、指示に従って簡単なテストを実施した結果を送信すると、参加者はお役御免となります。

Heart and BrainHeart and BrainHeart and Brain
Heart and BrainHeart and BrainHeart and Brain 「インフォームドコンセント」のため、アプリを立ち上げると臨床研究の目的や概要が細かく説明されます

 こうして取得したデータは、個人が特定できない形で収集され、研究に活用されます。また、臨床研究を行う際に必ず必要な、臨床倫理委員会の承認も得ているとのこと。アプリを通しての参加であっても、参加者の意思は尊重され、情報は厳重に保護されます。

 定期的に立ち上げて何かをするアプリではないので、機能そのものはそれほど豊富ではありません。一通りのテストが終わった後、使う可能性があるのは、動悸(どうき)の記録を取る機能のみです。また、この臨床研究に協力したからといって、なにか見返りがあったり、診断結果が送られてきたりするわけでもありません(テストを実施することで分かることなどは、アプリ内で解説を読むことができます)。基本的には、ユーザーがボランティアで参加するものです。

 ですが、ここで提供したデータが、将来の心房細動や脳梗塞の早期発見のために役立てられるわけです。「いわゆる健康アプリと違って、何かをこちらから提供できるものではありませんが、データ構築のためのまったく新しい取り組みですので、ぜひご協力をお願いします」(木村先生)

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