iPhoneやApple Watchは臨床研究に使えるか 「Heart & Brain」開発者の狙い(2/2 ページ)
慶応大学医学部が臨床研究のために開発したiPhoneアプリ「Heart & Brain」は、日本初のResearchKitを活用した取り組みとして注目です。アプリを開発した医学部内科学教室(循環器)の木村雄弘特任助教に、その狙いと展望を聞きました。
アプリは1人で開発
木村先生がResearchKitのことを知ったのは、Appleがこのフレームワークを3月に発表したとき。ネット上のニュース記事を見たのがきっかけだそうです。その後、4月に医学研究者向けにResearchKitの配布が始まると、すぐにダウンロードして、自身でこれを用いたアプリの開発を始めたといいます。
「最初はResearchKitに用意された仕組みを使って、質問票をもとにアンケートを作りました。ただ、それだけだとつまらないので、使える限りのセンサーを活用して何かできないか考えました。例えばApple Watchで取得した心拍数のデータは、HealthKitを経由して取得できるので、これで不整脈の検出ができないかを検討してみました。また、不整脈の1つに心房細動があります。心房細動は致命的な脳梗塞を起こす不整脈なので、診察室で脳梗塞の診断のために行う、バレー(Barre)試験を iPhoneを用いて実施し、センサーでデータを取る仕組みも入れてあります。iPhoneを持って、実際に体を動かしてもらうことで、簡単な脳梗塞の診察ができないかと考えたわけです。さらに、不整脈が起きた時間や場所を記録するためのオプション機能なども用意しました」(木村先生)
もともと、木村先生はApple Watchなどのウェアラブルデバイスを活用して生体データを取得したりすることには興味を持っていたそうですが、慶應義塾大学病院の循環器内科の医師の仕事もしつつ、業務の合間に自分でResearchKitの中身を見ながらSwift 2でアプリを組んでしまうとは驚きです。今回のようなスピード感で日本初の取り組みが実現した背景には、木村先生だったからこそ、な部分も少なからずあったようです。
ResearchKitを使ってこうした臨床研究用のアプリを作りたいと考える医師や研究者は少なからずいると思いますが、実際にアプリを作るとなると、「誰が作るのか」という問題が付いて回ります。そして、臨床研究は営利事業ではないので、外注しようにもアプリを開発するための予算もなく、断念せざるを得ないケースもあるのではないかと想像されます。仮に予算があったとしても、医師が求める仕様を解説して、開発会社に作ってもらうというのもなかなかハードルは高いでしょう。
臨床研究は、主に大学病院で行われることが多いことを考えると、今後は、理工系の学部と連携し、学内でアプリを開発する、といったアプローチも検討するべきなのかもしれません。
ResearchKitを用いた臨床研究の先にあるもの
Heart & Brainアプリを公開した木村先生は、「まずはどれくらいの数、どのようなデータが収集されるのかを見てみたいです」と言います。アプリには英語版も用意されていて、今後は海外の法制度なども確認の上、問題がない地域ではHeart & Brainを公開して協力を呼びかけていく考えです。まずはデータを取って、そのデータがどれくらい有用なのかを検証するわけですが、データの有用性が確認できれば、スマートフォンやウェアラブルデバイスを活用した健康情報の取得は、次のステージに進む可能性があります。
「取得できるデータが医療の情報として解釈していいということになれば、最終的には健康診断ツールなどに応用をしていきたいですね」(木村先生)
さすがに医師の診断をアプリ上ですることはできませんが、何らかの助言や提案をフィードバックできるようなツールが作れたら、と期待は膨らみます。またHeart & Brain自体は、脳梗塞や不整脈の早期発見が主テーマの臨床研究アプリですが、他の病状や、体の他の部位、他の臓器にも応用は可能なはずです。
「こうした情報収集方法の応用の可能性は無限大だと思います。情報の量と質を両立するために、柔軟に考えていこうと思っています」(木村先生)
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