遺伝性乳がん予防で「乳房切除」、海外の予防的手術事情について

「病気になる前にそれを封じる具体的なアクションを起こす」。アンジェリーナ・ジョリーが実行した乳房切除は、まさに究極の予防でした。しかし同じような考え方が、日本で通用するのでしょうか。

» 2015年07月31日 06時00分 公開

先制医療に対する考え方の違い

 日本では、病気が発覚してから治療をするという考え方が一般的ですが、アメリカでは病気発症のもっと以前から何らかの方法で将来の病気を予想し、先手を打っておくという考え方が強いといわれています。「自分の身は自分で守る」という精神の表れでしょうか。

 そのためにアメリカの民間医療保険では、アンジェリーナ・ジョリーの遺伝性乳がんのケースのように予防のための手術に保険が適用される場合があるのです(アメリカは日本のように国民健康保険制度といったものはなく、民間の保険会社の医療保険が主体となっています)。遺伝子ビジネスが発達するのも国民性でしょうか。

 その点日本人は、病気に対しても受け身の部分が多いです。国民皆保険という制度があるためか、自ら治療法を選択するという考え方自体は、まだまだ弱いと考えられます。

医師と患者との関係性の違い

 日本ではなじみが薄いですが、アメリカでは、医師と患者がつねに対等に話し合える関係にあります。日本では医師の言葉に従うことが多いですが、アメリカではセカンドオピニオンが積極的に活用されています。

 特にHBOC(遺伝性乳がん・卵巣がん症候群)発症のリスクが高いことが発覚した場合、予防的手術をすべきかしないでおくかということは、一人の医師だけでは判断が難しい内容です。将来発症する「可能性」を示しているだけであり、発症しないということも考えられるからです。

 アメリカでなら、複数の医師のアドバイスをもとに患者自らが判断することも、アドバイスを行う医師も見つかるかもしれませんが、日本ではなかなかそのような行動をとるのも難しいかもしれません。

 このようなアメリカと日本の医師と患者の関係の在り方の違いは、アンジェリーナの予防的切除の決断を受け止める上では、理解しておかなければならないでしょう。

がん末期などで治療を求めてセカンドオピニオンを求める話はよく耳にするが、未発症の病気の診断については日本ではまだまだ難しいだろう(写真はイメージで、記事と直接の関係はありません 写真:MIKI Yoshihito/クリエイティブ・コモンズ表示 2.0 一般)

海外と日本での遺伝子検査価格の違い

 日本においても、遺伝性乳がんなどに関する遺伝子検査は医療機関で実施可能ですが、価格は25〜30万円と決して安くありません。

 この遺伝子検査の価格についてですが、実はお隣りの韓国では遺伝性乳がんの遺伝子検査価格が、アジアの中でも特に安いことで知られています。

 安い理由としては、以前韓国においてこのHBOCの大規模な研究がおこなわれ、韓国人特有の研究成果が得られたから、と考えられています。本来であれば幾つもの箇所を、変異しているかどうか調べなければならなかった検査でしたが、本研究により韓国人であればこの箇所だけで調べればよい、という研究成果が発表され、それにより解析する箇所が少なくなったと考えられます。

 検査コストが安くなったため、利用者に提供する価格も安くなったというのが、この現状の背景と思われます。

 上記からも分かるように、遺伝性疾患の遺伝子検査では、研究の進捗具合が価格や利用しやすさを決める一つの基準となっています。最近日本国内でも少しずつHBOCの研究が進められています。いつの日か保険も適用され、安価に誰でも遺伝子検査を受けられる日が来るかもしれません。

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