「タバコを吸ってシワシワ顔を手に入れよう!」禁煙呼びかける逆転の発想

禁煙を呼びかける米国のNPO団体ASHが、禁煙を喚起するキャンペーン動画をYouTubeで配信しました。喫煙やタバコの有害性というネガティブかつ耳タコなメッセージをいかに大衆に伝えるか――。1分43秒の映像には、人の興味を誘う工夫が施されています。

» 2015年08月23日 06時00分 公開
[赤江龍介ITmedia]

 「歳をとりたいと思ったことはありませんか? あなたを20歳老いて見せられる商品が出ました!」

 シワだらけの女性の顔写真とともに、テレビ通販のようなナレーションで始まる『The Wrinkler』というタイトルの動画。映像の冒頭は、スキンケア系のブランドのパロディー動画のような展開になっていますが、次第にどうも様子がおかしいことに気付いてきます。

 なぜなら「Winkler」という商品は、シワを増やすなど人を老けさせる画期的なアイテムとして動画で紹介されていますが、それを買いたい人がいるとは到底思えないからです。「どういうこと?」と気になって最後まで見ていくと、その「商品」の正体が「タバコ」であることが明かされます。

逆転の発想でタバコの有害性に関心を引く

 この動画がユニークなのは、誰もが知っているタバコの吸い方を「シワ作りのためのシンプルな5つのステップ」としてシュールに紹介していること。Step1:Wrinkler(タバコ)のパッケージを開け、Step2:箱から取り出し、Step3:ライターで火をつける。そして、Step4:煙を吸引して楽しむ。最後は、この1〜4までのプロセスを繰り返すというステップです。

簡単にシワ作りができる「Wrinkler」の使用手順

 動画を作成したNPO団体「ASH」は、Webサイトでいかにタバコが身体に悪影響を及ぼすかや、タバコ代のコストの高さを詳細に記載しています。例えば、タバコには依存性があり、脳に悪影響を及ぼす。タバコに含まれるニコチンを摂取し続けると、欠如したときにイライラしたり落ち着かなくなったり、タバコを吸いたいと思ってしまう。また、毎日1箱を1年間吸い続けると、iPhoneやPCを買える金額に積み上がることなどを指摘しています。

 こうした身体への有害性やコストの高さといったデメリットをネガティブキャンペーンで拡めるだけでは、あまりにも当たり前すぎてメッセージ性に欠けてしまいます。タバコが悪影響をもたらすことは周知の事実で、喫煙者たちもうんざりするほど見聞きしているでしょう。だからこそ、この逆転の発想でタバコの有害性に関心を引こうとしたのです。

NPO団体「ASH」のWebサイトに掲載されたタバコの有害性を示す図解

喫煙者に対する世論をてこに

 タバコのパッケージングに有害性を知らせる表記を義務付けるべきかの議論は世界中で行われています。米国では2009年に、タバコメーカーのPhilip Morris USAに対し、タバコの健康への有害性を事前に十分に告知していなかったとする訴訟が起きました。結果、裁判所はメーカーに対して約3億米ドルの支払いを命じました。類似ケースは数多くあります。

 日本でも、喫煙者に対しての風当たりはますます強くなり、オフィスや飲食店などでの分煙や喫煙禁止区域が増えています。最近は、企業の中には喫煙者を採用しないという動きも出始めており、喫煙習慣の有無が就職活動に影響を及ぼすことも。高級リゾートの運営で知られる「星野リゾート」は、作業効率・施設効率・職場環境の観点から喫煙者は採用しないと明言しています。もし採用応募者の中に喫煙者がいた場合、入社までに禁煙者になるという誓約書に同意しなければ選考に進めないそうです。

 喫煙者の肩身は狭くなる一方で、「喫煙者に対しての差別では」と反発する声もあります。こうした世の中の流れにあり、動画を制作したASHは、ただネガティブキャンペーンでタバコの有害性を訴えたり、一方的に法律を押しつけるのでは、喫煙者の意識を変えることはできないと考えたのでしょう。

 動画の視聴者からは「年老いて見えたいなら、この商品が願いをかなえてくれるよ」といったユーモラスなコメントや「タバコを吸うことで若く見えると思って吸っている人たちに見てほしい動画だ」と皮肉たっぷりなコメントが寄せられています。

 耳にタコができるような話題こそ、人の心に入り込むためにはちょっとしたユーモアが必要なのかもしれません。パロディ動画というフォーマットにあてはめるというのは、タバコのネガティブキャンペーンとして興味深い手法でした。

The Wrinkler

ライター:赤江 龍介(あかえ りゅうすけ)

立命館大学国際関係学部卒業後、居酒屋チェーン「和民」などを展開するワタミフードサービス(現ワタミフードシステムズ)に入社。その後、シンガポールの金融機関でインターンとして働きながら、母親が米サンフランシスコで経営する日本料理店の経営にも従事。その後もスターバックス コーヒー ジャパンで飲食業でのキャリアを積み、また転職した英会話学校では講師を務める傍ら、宣伝・マーケティング業務なども経験。現在はライターとして「食」「ヘルスケア」「店舗経営」などの分野で記事の執筆・編集を行っている。 (編集協力:早川すみれ、岡徳之)


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