冬以外でも注意が必要? 山登りにおける低体温症の危険性
冬場以外にも気を付けたい、登山の際の「低体温症」。原因や対策を専門家に伺いました。
夏になると注意を呼び掛けられることが多いのが、日射病や熱中症。しかし、登山となるとそれ以外にも気を付けなければならない症状が幾つもあります。山の標高が高ければ、季節に関係なく「低体温症」になる可能性があるのです。低体温症の原因や対策などについて、山岳ガイドをしている株式会社アドベンチャーガイズの古谷聡紀さんと、順天堂大学医学部付属浦安病院の田中裕先生に聞きました。
低体温症の仕組み
低体温症は雪山などの寒いところで遭難し、体温が奪われていく症状のことを指します。「凍死」は低体温症が原因で死亡した際の名称です。真夏では「熱中症」が騒がれがちですが、標高が高い山では夏でも低体温症の心配をしなくてはなりません。
山岳ガイドをしている株式会社アドベンチャーガイズの古谷聡紀さんは、低体温症について以下のように語ります。
「人間は恒温動物なので平熱を保とうとするのですが、例えば雪に埋まったとき、どんどん体温が下がっていきますよね。それでも平熱を保とうとするために人間はエネルギーを発散するのですが、エネルギーも尽きて、体温を上げることができなくなったとき、初めて低体温症となります。具体的には35度未満になること。体の機能が止まってしまう状況を示します」(古谷さん)
原因と対策
主に外的要因から体温が奪われてしまうことで生じる「低体温症」。その原因にはどのようなものがあるのでしょうか。
「人間は通常36度の平熱を保とうとしますが、例えば登山中、汗や雨、雪などの外的要因を受けると、体温が下がってきます。雨や雪で濡れた際、ウェアは体温を使って衣服を乾かそうとするのですが、乾かすためには身近な熱として体温を使います。これによって熱がどんどん奪われていくのが、低体温症になる原因です」(古谷さん)
また、順天堂大学医学部付属浦安病院の田中裕先生は、低体温症の原因に以下のものも挙げています。
「低体温症の典型的な原因としては、雪山などの寒いところで遭難し、体温が奪われてしまった場合や、冷たい川などで溺れてしまい、そのまま水分が乾くことなく体温が低下していった場合があります」(田中先生)
これらへの対策として、古谷さんは以下のように話します。
「ウェアを選ぶときには、素材がいちばん大切です。吸汗速乾系の素材のものでも、着ていてエネルギーを奪っていきます。ただ、こうした素材の服は自分から乾こうとしてくれますから、体温を奪う量が少なくて済むのです。そしてその対極にある素材が『綿』ですね。綿は乾くまでにかなりエネルギーを消費するのです。
ウェアは肌着、アウター、中間着、3種類に分けられますが、快適に登山をするためには、着るもの・羽織るもの全てで綿を避ける必要があります。アウターは外から水が入らないことはもちろん、内側からの水蒸気は通せる素材、『防水透湿』なものが求められます。そして中間着、肌着は吸汗速乾が大事です。肌着が吸汗速乾でも、中間着が綿だったらそこで熱は止まってしまいますから。乾くためにエネルギーをたくさん奪う素材を着込んではいけないんです」(古谷さん)
エネルギーを奪う「汗冷え」について
夏場の登山では大量に汗もかくと思いますが、汗冷えから低体温症になることはないのでしょうか。田中先生は以下のように語ります。
「汗冷えの原因は熱を放散するためにかいた汗が衣類に付着し、それが体を冷やすことにあります。体が冷えた場合、通常であれば自分で熱を産生し、平熱を維持し続けるはずですので、汗冷え程度で低体温症になる可能性は低いです。
しかし、着替えるタイミングすらままならない寒さで動けなくなってしまうなど、異常な環境下においては、濡れたままの衣服により放散過剰になってしまい、熱の産生が追いつかず体温バランスが崩れる可能性があります。
これを防ぐには、汗や雪、雨といった水分が冷えない素材の衣服を着るか、それらを拭いたあとに着る衣服が熱産生を促す素材である必要があると思います。もちろん、寒冷環境に来たときには、寒さを押さえてあげる服は必要ですね」(田中先生)
また、古谷さんは、山岳ガイドの視点から以下のように話します。
「山岳ガイドとしては、よい素材のウェアを着ることをおすすめして、安全度を高めてもらっています。ウェアのおかげで汗冷えが防げれば疲労もしづらくなり、歩くペースを落とさずに済みます。登山はスピードが早い=安全なのです。高所や雪山に長い時間いるだけでリスクは高まりますので、危険な状態を早く抜けられるに越したことはありません。そのために体力を温存しておいてもらえたほうが、こちらとしても助かるのです」(古谷さん)
余計な体力を使わないためにも、ウェア選びはしっかりと!
古谷さんと田中先生の説明にあった通り、低体温症は体温を奪われ続けた結果、エネルギーを燃焼することができなくなって発生します。体内にはエネルギーを蓄えておくことが大切ですし、汗冷えなどによる無駄なエネルギー消費を防ぐことも重要です。吸汗速乾系素材のウェアを装備して、安心・安全なアウトドアをお楽しみください!
識者紹介/古谷 聡紀
1964年生まれ。日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド。ヨーロッパアルプスのツェルマットなどで5年間現地ガイドとして活動。その後、世界中の山を歩き回る。登山・スキー雑誌、旅行ガイドブックなどに多数寄稿。テレビ番組でも登山ガイド役でもおなじみ。最近は、エコツアーガイドとしても活動。山を中心とした環境エコツアーを案内している。株式会社アドベンチャーガイズのチーフガイド。
識者紹介/田中裕
昭和57年大阪大学医学部卒業後、救急、外科研修を行った。米国留学後、大阪大学救急医学助教授を経て、平成19年より順天堂大学医学部救急・災害医学教授。医学博士。専門は救急医学、外傷外科、災害医学など。現在、日本救急医学会、日本外傷学会、日本熱傷学会などの理事を務める。「救急医療は最後の砦」、「救急医はチーム医療の要」、「救急を科学する」を目標に日々活動している。
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