第47回 足を拡張するウェアラブル? 「マイクロモビリティ」とは:“ウェアラブル”の今
ウェアラブルデバイスというと、身に着けるものを想像しがちだが、今回紹介するマイクロモビリティも広義のウェアラブルと言えるのではないだろうか。米国西海岸では今、この小さな乗り物が話題だ。
今回は、少し視点を変えて人の移動に関する話を考えてみたい。ちょっとSF的なイメージをすれば、身に着けて人の移動を拡張する手段についての話なので、ウェアラブルに含めても良いのではないか、ということで。米国では「マイクロモビリティ」と呼ばれている。
サンフランシスコの家賃の高騰はさすがに度を超えていると感じている人が多い。筆者の住むバークレーも、BARTと呼ばれる高速鉄道でサンフランシスコまですぐに出られるため、そのあおりを受けて家賃が高くなりつつある。バブルだ、と憤る一方で、日本でいう1LDKで1カ月の家賃が45万円だと言われても、さほど驚かなくなっている程度には常識になっている。それでもやっぱり高い……。
家賃高騰については、バブル以外にもいくつかの構造的な要因がある。テクノロジー系企業に勤める、高給取りの若手社員の、遊ぶ場所がある市内に住みたいというニーズ、そして計画されていた高速道路やサンフランシスコ湾を渡る橋が建設されず、交通網の整備が順調に進んでいない現状なども原因とされる。また、テクノロジー系企業などが市内に本社を構える例も増えており、特にモバイルアプリ企業にその傾向が強い。
交通網の要因とそもそもの就業人口増加は激しい渋滞も引き起こしている。先日も、夕方のラッシュ時間帯、100メートルほどの区画を進むのに車で1時間かかった、なんていう事態も起こっている。加えて、前述のBARTの輸送量も不足しがちで、乗り切れない人たちが数駅戻って電車に乗り直さなければならないようなこともある。
東京のラッシュアワーに海外の人は驚くが、サンフランシスコの現状と比べれば、東京の方がきちんと機能しているとしか思えない。そもそも、駅も電車もキレイですしね。
交通の不便への対処から生まれたマイクロモビリティ
Appleは2007年に携帯電話市場に参入し、今度は2019年にも電気自動車を作るという「噂」が流れている。Tesla Motorsは、米国の経済誌Forbesでも「最も革新的な企業」に選ばれているが、やっぱり自動車作りには100年の計があり、特に足回りにその違いが現れているように思う。
それでも、Volks Wagenの“クリーンではなかったディーゼルエンジン”の一件があり、ハイブリッドに再び目が向けられ、電気自動車へと業界が進んでいく傾向はより強くなるのではないか、と考えている。トヨタは新型プリウスを、結果的には最良のタイミングでリリースする事になりそうだ。
自動車は難しい。だったらもっと小さなモーター駆動のモビリティを試してみてはどうか。渋滞知らずで公共交通機関にも乗り込むことができ、移動距離を伸ばすことができる「ガジェットのような乗り物」を、サンフランシスコ市内でもバークレーでも、頻繁に見かけるようになった。それが冒頭の写真だ。
いわゆる、パーソナルモビリティの領域から、電気自動車の可能性を模索することができるのではないか、と期待している。スケートボードやキックボードなどの乗り物が日常的に使われていて、できるんだったら作っちゃおう、というマインドがあるサンフランシスコらしいトレンドではないだろうか。
スタイルはいろいろ
パーソナルモビリティで代表的なモノをいくつか挙げておきたい。
Solowheel
最近バークレーでもよく見かけるのが、電気でドライブする1輪タイプ、「Solowheel」。体の重心を傾けて移動をするタイプで、2輪でハンドルがついているセグウェイと同じような操作感だった。ただ、バランスのコツをつかむまで、あるいは完璧なコントロールをつかむためには、しばしの練習が必要そうだ。最高速度は時速16キロ、航続距離は16キロ。価格は1495ドル(約17万9000円)。「Air Wheel」などの類似製品は半額程度の値付けをしている。
LeviBoard Original
先日ロサンゼルスのAdobe MAXカンファレンスへ取材に行った際、近隣のホテルで貸し出していたのが「LeviBoard」。2輪の間にステップがあり、ここに立って重心移動でコントロールするタイプだ。タイヤが2つあるため、1輪よりもバランスが取りやすく、扱いやすい印象。ただし、段差などの走破性能は、タイヤの大きさから前述のSolowheelのほうが勝っていると感じた。最高速度は時速20キロ、航続距離は最大19キロで、乗る人の体重、気温によって変化するという。価格は649ドル(約7万8000円)、「iPhone 6s」の16Gバイト版と同じ値段だ。
ZBoard/Boosted Single
スケートボードにバッテリーとモーターを搭載するアイディアは、いくつも試されており、KickstarterやIndieGoGoなどのクラウドファンディングを何度も成功させている人気のあるカテゴリーだ。「ZBoard」は、美しい木製のボードの裏を有効活用するアイディアで、電動スケートボードを実現させており、重心移動でアクセル、ブレーキのコントロールを実現している。ただ、「Boosted Single」の方が安心、という声もある。こちらは、Bluetooth接続のリモコンがついており、コントロール性に優れている。ZBoardは599ドル(約7万2000円)、Boosted Singleは999ドル(約11万9000円)。いずれも、バッテリーの容量やパワーを向上させたモデルを選ぶことができる。
乗りこなし、航続距離、重さなどの課題
まとめると、いずれのスタイルも、モーターの出力が1000ワットから2000ワット、速度は最大でも時速20キロ、バッテリー容量は航続距離10キロ〜20キロ弱、重心移動もしくはリモコンによるコントロールという形になっている。
上に挙げた製品の他にもキックボードにモーターが搭載されているモデルなどがあり、いくつかのスタイルから選択できる。課題というか、ジレンマとして、いくつか共通している点もある。
職場から家までの間に、急な坂ある場合は考え物だ。製品によっては傾斜角度15度程度であればぐんぐんのぼっていくとの説明があるが、サンフランシスコ名物の急坂が15度に収まっているとは限らない。ZBoardはよりパワフルな「サンフランシスコバージョン」を用意しており、こうした対応が必要だ。つまりコストがさらにかかることになる。
また、間に公共交通機関を利用する場合は、自転車ほど容易に行かない。スケートボードスタイルは重さが10キロ以下だが、それ以外は15キロ以上のものが多く、担いで電車に乗るのは全くスマートではない。
加えて、例えば10キロ、20キロといった都市間移動や、筆者が住むバークレーから50キロ離れたシリコンバレーの企業へ取材に行くといった用途には歯が立たないことになる。
ということで、現状においては、例えば徒歩で1時間〜1時間半かかる距離、およそ4キロから6キロあたりが、スイートスポットだという結論になりそうだ。これならもしも職場で充電できなくても、航続距離の面で問題ないし、15分から30分程度の爽快な移動時間はリフレッシュにもぴったりだ。
それより短い距離であれば歩いた方が健康にも良いだろう。
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