コラム
» 2016年11月23日 06時00分 UPDATE

「歩くと良いアイデアが浮かぶ」ことの科学的理由と「歩けないとき」の対処法

仕事中にアイデアに行き詰まったときは、ちょっと歩いてみるといいかもしれません。脳科学の見地からすると、歩くことは脳が活性化する良い活動といわれているからです。

[石原亜香利,ITmedia]

 「歩いているときに良いアイデアが浮かびやすい」というのは、多くの人に共通した体験だと思います。では、これが科学的に説明できることをご存じでしょうか。

 今回は、歩くことによって脳が活性化する仕組みと、実際にどのような良い影響があるのかを、脳科学を専門とする近畿大学医学部講師 生塩 研一(おしお けんいち)先生に聞いてみました。

歩くと脳はどうなる?

 私たちが歩いているとき、脳には何が起こっているのでしょうか。

 「歩くのには、全身のたくさんの筋肉が複雑に関わっています。脳は、歩いているとき、筋肉の活動や関節の角度などの情報を常にモニターし、リアルタイムに情報を処理して取り入れながら、微調整を行っています」(生塩先生)

 生塩先生は、歩いているときの脳は「感覚情報も処理している」と説明します。

 「すれ違う人に対応したり、道を選んだり、音を耳にしたり、匂いにつられてお昼のお店を変えたりといった、視覚や聴覚、嗅覚などの感覚情報の処理も、歩くことで強化され、脳をより活発に活動させると考えられます。

 ある動物実験では、受動的ではなく、自分から能動的に感覚情報を取りに行くと、神経細胞の活動が10倍も高くなることが確認されています。歩くと脳が警戒モードになって、脳の前頭前野などが活発に活動し、積極的に情報を取り込むのですね」(生塩先生)

歩くことで脳が活発に! その効果とは?

 歩くと脳内では、前頭前野などが活発に活動することが分かりました。では、これによってどんな良い影響があるのでしょうか。

1.より周囲に注意を払えるようになる

 「前頭前野は、実行機能などを担うマルチなタスクで活躍する脳領域です。実行機能とは、状況に応じて適切な判断をする思考過程のことで、仕事や日常生活のあらゆる場面で要求される機能です。ボーッと歩いていては危ないですが、脳の実行機能を高めることで、周囲に注意を払い、いろいろな感覚情報を能動的に取得して判断しているからこそ無事に歩けているのですね」(生塩先生)

2.記憶力が上がる

 「運動により、脳の海馬の働きが活発になって、記憶力が上がったという動物実験もあります」(生塩先生)

3.脳の処理レベルが上がる

 「実行力を高める前頭前野の活動が高まると、脳の情報処理レベルが上がるので、仕事もはかどるでしょう」(生塩先生)

4.セロトニンやドーパミンの放出によりスッキリ感・快感が得られる

 「歩くことで脳内物質のセロトニンが放出されてスッキリした気分になったり、脳の腹側被蓋野(ふくそくひがいや)の活動が高まって、ドーパミンが放出され、快感が得られたりすることも知られています」(生塩先生)

脳を活性化する歩き方とは?

 これらのメリットを知って、すぐにでも歩きたくなってきた人は多いはず。そこで生塩先生に、脳をより活性化させるための歩き方を聞いてみました。

 「近年、軽い運動でも認知機能が向上するということが実験で確かめられました。つまり、運動したという実感があまり強くない程度の歩き方でも、実行機能をつかさどる前頭前野の活動が高まる効果は期待できるということです。

 オフィスワークの方は、体を動かせるくらいのスペースがあるようでしたら、ラジオ体操、ヨガ、ストレッチといった軽い運動を5分〜10分でも行うと、脳の活動が高まることが期待されます。スペースが限られている場合は、その場で足踏みするだけでもある程度の効果は期待できるでしょう」(生塩先生)

運動をイメージするだけでも脳が活性化する?

 ただ、実際はオフィスワークの合間に運動するのはあまり現実的ではありませんよね。実は、生塩先生によれば、身体を動かさずに脳を活性化させる方法があるのだといいます。

 「目を閉じて運動をイメージするだけでも、脳の活動性が高まります。

 これまでの実験で、手の開閉運動や、ピアノをひく、テニスをするのをイメージするだけで、脳の一次運動野、運動前野、補足運動野、前頭前野、頭頂葉、帯状回、小脳といった多くの運動に関わる脳領域の活動が高くなることが確認されています。

 さらには前頭前野の活動も高まったとする実験もあり、体を動かすイメージだけでなく、視覚的なイメージも統合した高度な情報処理が脳で行われると考えられます」(生塩先生)

 運動をイメージするだけで脳の活動が高まるのは驚きですね。より活性化させるには、自分が運動をするイメージが最もいいそうです。

 「他人よりも、自分で運動を行うイメージのほうが、より有効であることが指摘されています。また、実際に運動する場合は軽い程度でよかったのですが、イメージする場合は強負荷の運動をイメージするほうがいいですね。時々職場の階段などを急いで上がって、視覚的イメージとしんどさの感覚を体感しておくとよいでしょう。よりリアルにイメージするためには、具体的に階段の段数を数えておいて、イメージするときも段数を数えるようにされるのがオススメです。

 テニスなどのスポーツをされる方は、そのプレーをイメージするのもよいですね。脳の活動性を高めるだけでなく、プレーのイメージトレーニングにもなって一石二鳥になります」(生塩先生)


 「歩く」ことは、思っている以上に脳に良い変化をもたらすことが分かりました。実際に歩くチャンスがあれば、ぜひ自分の足で歩いて仕事の能率を高めましょう。

 もし歩けない場合には、自分が高強度の運動していることをイメージして、脳を活性化させるのもよさそうです。

監修・取材協力

生塩 研一(おしお けんいち)

近畿大学医学部・講師。1969年広島市生まれ。広島大学大学院博士課程後期修了。博士(理学)。慶應義塾大学理工学部助手などを経て、2012年より現職。脳の実験的研究に従事。


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